は南方からこの島へ飛来したのだと思う。いいかね、南方からだ。君のいうように北方からではない。そしてそれには歴然たる証拠がある」
「ほう、全く正反対の説だ。で、その歴然たる証拠とはどんな事だ。そしてその証拠はどこにあるのかね」
「その歴然たる証拠物件は、何を隠そう、実は吾輩の寝室にあるんだよ。はっはっはっ」
 ドレゴはそういい切って呵々大笑《かかたいしょう》した。
「なに、君の寝室に……」
 ホーテンスは目を丸くした。
「そうなんだ。事件の当夜、あの事件の発見に先立つこと数時間前、水戸も知っているとおり僕はあの夜泥酔していて漸《ようや》く自分の寝台に登ったわけだが、忽《たちま》ち深い眠りに落込んだ。ところがその深い眠りを突然覚ますような事件が起ったんだ。ガーンとでかい物音が眠りを破った。それは寝室の北側の壁のあたりから発したように思った。僕はその物音に一旦目を覚ましたものの、音は一度きりだったので、又眠ってしまった。そして夜が明けた。僕はふとぼんやりした記憶に呼び戻されて、目を北側の壁へやったところが、愕《おどろ》いたね、そのときは……。なぜってそこに懸けてあった額縁が上下に真二つに割れ
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