は沖合に碇泊し、港内へは入らなかったが、傭船を以て給水を受けた。そして三時間後には愴惶《そうこう》として抜錨《ばつびょう》し北極海へ取って返した。どうだ、面白い話ではないか」
「ふうん。一つの有力なる手懸《てがか》りだ」
「ところがさ、ゼムリヤ号の消息は、それっきり知られていないのだ。つまり事件の発生した日までの三週間に亙る行動は全く不明なんだ。そこでこういう説が行われている。ゼムリヤ号は、或る予期せざる椿事《ちんじ》のため、或る巨大なる力を受けて北極海から天空に吹きあげられ、そして遂にこのアイスランドのヘルナー山頂へ墜落したのだろう。勿論この推定は漠《ばく》たるもので、何等確実なる証拠がないが、常識からいって、そう考えられるという程度に過ぎないが……」
「僕はそうは思わない」ドレゴが途中で口を挿んだ。
「ゼムリヤ号が北極海からこのアイスランドへ飛来したという説は、全く事実に反するものだ」
「なに、事実に反するって。それは面白い。君は早速それについて説明をしてくれるだろうね」
今度はホーテンスが聴き手に廻る。
「ああ、是非聴いて貰いたいね。つまりこうなんだ。僕の結論を先にいえば、ゼ号
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