だ。そして彼は視線をホーテンスの顔から逸《そ》らせた。
 ホーテンスは、ドレゴの意見を聞きたがった。が、ドレゴは、
「いや、もう少し慎重に考えてから、喋《しゃべ》ることにするよ」
 と、いつになく尻込みをして、煙草の煙をやけにふかすのであった。水戸はちょっと心配になった。ドレゴのそういう態度が、折角今夜この招待に応じたホーテンスの気持をここで悪化させないかを虞《おそ》れたのである。だが、ホーテンスの明るい顔色は聊《いささ》かも変らなかったばかりか、彼は更にゼムリヤ号に関する未発表の調査事項までを、ドレゴと水戸の前にぶちまけたのである。

  証拠の手斧

「話はまだその先があるんだよ、君たち」とホーテンスは煙草に火をつけ、「さっきから述べてきたゼムリヤ号の正体を僕が発見して本社へ報告したところそれから間もなくゼムリヤ号の行動についての愕《おどろ》くべき詳細なる報告に接した。いいかね」
 とホーテンスは腕組みをして、二人の同業者の顔を見渡し、
「……事件の日から三週間前のことだが、ゼムリヤ号に相違ないと思われる汽船が、フィンランドの北岸ベチェンカ港外に現われたことが分ったのだ。ゼムリヤ号
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