、その資料はヘルナー山頂に横たわり、今も我々の監視下にあるんだからね」
 ホーテンスとドレゴは、新鋭砕氷船の特質につき大きな興味を沸かしているのだった。
「一体砕氷船というものは、そんなに強い耐圧構造を持っていなければならないものかね」
 水戸が、疑問をなげかけた。
「さあ、それは強ければ強いほどいいだろうが、それにしても少し大袈裟《おおげさ》すぎるな。僕なら、そんな莫迦《ばか》げた耐圧力を持った砕氷船なんか作りやしないよ」
 と、ドレゴが、寒帯住人らしい自信を持っていい切った。が、ホーテンスが、別の見解を陳《の》べた。
「だがねえ、仮にゼムリヤ号のような砕氷船が百隻揃って北氷洋や南氷洋に出動したと考えて見給え。そうなると極寒の海に俄然常春が訪れるじゃないか、漁業や交通やその他いろいろの事業に関して……」
「ほう、これは面白い想定だ。ううむ、そして実現性もある」
「だが、僕はそう思わないね。ゼムリヤ号があのような強い耐圧力を持っている理由はもっと外にあるような気がするよ」
「というと、どういう意味かね、ドレゴ君」
「それは……」といいかけたドレゴは、後の言葉を咽喉《のど》の奥にのみこん
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