その中に只《ただ》一冊、当のゼムリヤ号の記事を掲げている雑誌につきあたったんだ。その雑誌はヤクーツク造船学会誌の最近号たる六月号だ。その雑誌の一隅に、新鋭砕氷船ゼムリヤ号のことが小さい活字で紹介してあったのさ。もしこの雑誌を調べ洩《も》[#底本ルビは「もら」、22−下段−10]らしていたとしたら、ゼムリヤ号の正体は今以て不明だったろう。いや、実にきわどいところだったよ」
 そういってホーテンスは大きな溜息をつき、ぐっと一ぱい酒をあおった。
「努力が酬いられたのだ。神は常に見て居給《いたも》う。そして正しき者へ幸運を垂れ給う」
 水戸が誰にいうともなく呟《つぶや》いた。
「その雑誌の中に、今君がいったゼムリヤ号は六十パアセントの圧縮に耐えると記されていたのかね」
「そのとおりだよ、ドレゴ君。君もゼムリヤ号の特殊構造には興味を感じるだろう」
「全く、大いに感じる。第一、そういう凄い耐圧力を持たせるには普通の鋼材では駄目だね。何という材料かなあ」
「そのことは雑誌に少しも記されていない。だが我々は近き将来において、その材料のことや構造のことをはっきり知ることができるだろう。焼け落ちたとはいえ
前へ 次へ
全184ページ中34ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
丘 丘十郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング