かね、ホーテンス君」
訊《き》いたのは水戸だった。
「そのことだ。僕は、怪船ゼムリヤ号の身許を知ることが、この事件の解決の近道だと思ったので、早速《さっそく》本社へ指令して、ありとあらゆる船舶関係の刊行物を調べさせた。ところがゼムリヤ号の名はどこにも見当らないと報告があった。僕は失望した。しかし、同時に別の勇気が奮い起った。それはつまり、ゼムリヤ号がいよいよ怪船らしく見えてきたからだ。だが、それだけではどうにも出来ぬ。何としてもゼムリヤ号の正体を探し当てなければならぬ。この上はどうしたらいいだろうかと思い、このオルタの港を眺めていると、そこへ入港して来た一隻の汽船がある。それはソ連船レマン号だった。僕はその船を見た瞬間一種の霊感に触れた。そこで飛ぶようにして一隻のモーターボートを傭い、そのレマン号へ乗りつけたのだ。それから、船長に要件を申し入れた。船長のポーニフ氏は愕いていたね。しかし彼はゼムリヤ号なんて聞いたことがない名前だといった。それは嘘だとは思われない。僕はまた失望したが、それなれば、新着の船舶関係の刊行物を見せて下さいと頼んで、サロンで新聞や雑誌類を見せて貰った。ところが、
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