いなかったのである。その他のものも、呆《あき》れるほどよく焼けており、この数日ゼムリヤ号の火災が普通以上に高熱を発して燃え続けたことが、誰の目にもはっきり承認された。
 そうなると、調査方針は自然変更されねばならなかった。今度は積極的に消火することに狙いが置かれた。今盛んに燃焼している部分を完全に消し留めることによって、これから先燃焼するであろう物件を助け出し、それによってゼムリヤ号の搭載荷物とか遺留物品を点検して何かの新しい手懸りを得ようとするのであった。そのためには、更に大掛りな機械類の現場到達を本社へ向けて要請しなければならなかった。
 このような大掛りな調査競争となったために、ハリ・ドレゴや水戸宗一の役割は、すこぶる貧弱なものに墜《お》ちてしまった。彼ら両人には、完全な耐熱耐圧服の一着すら手に入れることは出来なかった。従って両人は甚だ残念ながら報道の第一線から退《しりぞ》く外なかった。そして、“有名なる第一報者のハリ・ドレゴ”という博物館的栄誉だけが残されているだけであった。
「これから、どうするかね、水戸」
 野心|勃々《ぼつぼつ》たるハリ・ドレゴは、まだ諦《あきら》めかねて
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