ひとみ》を送って、彼を元気づけた。
「ねえハリ。口惜しがったり、くさったりする前に、君が是非とも果さなければならない義務があるじゃないか」
「なに、義務というと……」
「困るなあ、君は……。君は、この大事件の名誉ある発見者でありながら、まだその義務を世界に向かって果していないではないか。つまり君は、まだこの大事件について、一本の通信も送っていない」
水戸にそういわれると、ドレゴはおおと呻《うめ》いて顔色を変えた。
「そ、そうだった。自分だけで愕いて、興奮して、騒ぎたてるばかりだった。そうだ。早く第一報を送らないと、誰かにだしぬかれてしまう。水戸、今からではもう遅すぎるかなあ」
ドレゴは、水戸の腕をゆすぶった。そのとき水戸は、通信装置の試験をようやく終ったところだった。
「その心配は無用だ。このヘルナー山頂の見える区域で、超短波の通信機を持っているのは、今のところ僕たちばかりだからね。村人も、もちろん今ではこの怪事件に気がついてはいるが、彼らは通信機関を持っていない。だから僕たちは依然として、第一報を送り得る恵まれた立場にあるのだ。なるべく早い方がいいが、しかしまだ周章《あわ》てるこ
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