過ぎる事件の名称も、案外この事件に相応しい魅力を備えてはいないことに気がつくに至った。それは後の話として、彼ドレゴが何故このような名をつけたかというと、海を渡るべき巨船が山の上の航行を企てたところは、このゼムリヤ号が発狂したものとしか考えられないという着想から来ていた。嘴《くちばし》の黄色い[#「黄色い」は底本では「青い」、16−上段−7]ドレゴ記者にしてはまことに大出来であったといえる。
 それはそれとして、本当に巨船ゼムリヤ号は発狂したのであろうか。発狂したとしたら、何故発狂したのか。そして何故にこんな雪山の上に巨体を横たえるようなことになったのであろうか。不思議である。奇抜すぎる。本当のことと思われない。しかしこれは飽《あ》くまで事実であった。ではこの事実をどう説き明かすか。それはゼムリヤ号の煙が、もう少し治るのを待たねばならない。

  第一報飛ぶ

 若きハリ・ドレゴは、折角こうして怪奇きわまるゼムリヤ号の狂態現場に駆付けながら、これ以上手をつけ得ないことをたいへん口惜《くや》しがった。
 断崖の上で超短波の通信装置の組立に従っていた水戸宗一は、ドレゴの方に思いやりのある眸《
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