脳を絞ってみたが、不図《ふと》思付いて、彼はすこし後退すると雪塊を掘っては岩陰へ搬《はこ》んだ。そしてかなり溜った上で、今度はそれを掴《つか》んで矢つぎ早に船尾を蔽う煙に向って投げつけた。
これは思い懸けなくいい方法だった。煙はこの雪礫《ゆきつぶて》に遭って、動揺を始め、或る箇所では薄れた。それに力を得て、ドレゴは更にその方法をつづけ、そして遂に朧《おぼろ》なる船名を判定することに成功したのであった。
ゼムリヤ号。
これがこの怪しき巨船の名であった。一体どこの国の船であろうか。それを知りたいと思って、なおもしばらく雪礫で煙を払ってみたが、それは成功しなかった。船腹には国籍の文字もなく、船旗も信号旗も悉く焼け落ちていたからである。
それからこの事件の名称だ。
ドレゴは、水戸の待っている場所まで戻る間に、この事件のためにすばらしい名称を思付くことを祈念した。そしてその結果、不図《ふと》一つの驚異的な名称を思付いたのである。
「巨船ゼムリヤ号発狂事件」
この名称では少々奇抜すぎるかなと思った。しかし後々になってこの事件の内容がだんだん明白になるにつれ、最初にドレゴが考えたこの奇抜
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