あった。新聞記者でありながら、この山頂からの通信をどうするかを考えなかったのだ。いつもの調子で町から容易に通信が出来るように思っていた。そこへ行くと水戸は咄嗟《とっさ》[#「咄嗟」は底本では「咄差」、15−上段−7]の場合にも用意周到だ。やっぱり、よかった。協力者として水戸を誘ってよかったのだ。もしドレゴ自身ひとりで出懸けて来ようものなら、通信機を持たぬ彼は今頃|地団太《じだんだ》踏んで口惜涙《くやしなみだ》に暮れていたことであろう。
「あの汽船の名前だけでも知りたいものだ。ドレゴ君、見て来てくれないか」
 水戸は通信機の組立の手を休めないで、そういった。
「よし、見て来よう」
「それからこの事件の名称だ。ドレゴ君は名誉あるこの事件の発見者だから、君がいい名称を択ぶんだよ」
「うん、すばらしい名称を考え出すよ」
 ドレゴは、すっかり機嫌を直して、燃える巨船の船尾の方へ駆け出して行った。
 煙が、意地悪く船尾の方へなびいているので、そこについているはずの船名は、そのままで読みとれなかった。これには困ってしまった。
 が、彼はこのままで引下がることは出来なかった。何かよい工夫はないかと、頭
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