していた。そして滅多に興奮しない彼が日頃にもなく顔を赤く染めて、激しい間投詞[#「間投詞」は底本では「感投詞」、14−上段−1]を口にした。
「これが僕の知っていることすべてだよ。後は、すっかり君の知識と同一さ」
ドレゴは言葉の終りをそう結んだ。
しかし正確にいうと、彼のこの言葉は完全だとはいい切れなかった。なぜならば彼はもう一つ水戸に語るべき事柄を忘れたのであった。尤《もっと》もそのときドレゴ自身が、その事柄をすっかり忘却していたのだから、彼を責める訳にも行かないだろう。それは、昨夜ドレゴが熟睡中、彼の寝室における異様な物音によって目覚めたという一事であった。この事柄こそ、事件判定の有力なる手懸りの一つであるわけだが、ドレゴはそれから程経つまでこの重要な事項を忘れていたのである。
現場は惨憺[#「惨憺」は底本では「惨怛」、14−上段−15]たるものであった、荒涼目をそむけたいものがあった。
巨船は人を莫迦《ばか》にしたように山頂に横たわり、そしてあいかわらず燃えさかっていた。
町中の人が、皆戸外に立って、燃えさかる山頂を恐怖の面持で見守っていた。今や事件は、この町中にすっか
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