のことだ。言葉で説明する前に、まず君の目で見て貰った方がいいだろう。ヘルナーの頂《いただき》に注意して見給え」
「なに、ヘルナーの峰を見ろというのか」
水戸は、きっとなって、顔を風よけの硝子《ガラス》の方へ近づけると、首をねじ曲げてヘルナーの峰を探した。
「ここらの連中と来たら呑気《のんき》すぎるよ。僕が発見してからもうかれこれ三十分になるのに、誰も気がついていないのだから……」
「おう、あれか」と水戸の声は慄《ふる》えた。
「なるほど不思議だ。雪のあるヘルナーの峰が盛んにもえている……」
そういった水戸の言葉を、今度は逆にドレゴが愕く番となった。
「なに、ヘルナーの峰が燃えているって。そんなはずはない」
「そんなはずはないといっても、確かに燃えているよ。炎々たる火焔が空を焦がしている」
「え、それは本当か」
ドレゴはさっと顔色をかえて、車を停めた。そして扉をあけて下へ立った。
おお、なるほどヘルナー山頂は火焔と煙に包まれていた。例の汽船の姿はその煙の中に殆んど没入していた。さっきまでは煙一筋もあがっていなかったのに、これはどうしたことであろうか。
友はしきりに感歎の声を漏ら
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