潜水艦を手に入れなければならない」
「潜水艦? そんなものはアメリカにたくさんあるんだろうに……」
「アメリカのでは駄目。ぜひヤクーツク[#、87−上段−7]造船所製のものが必要なんだ」
「ヤクーツク[#、87−上段−9]造船所のものが……。だってあそこで潜水艦を作った話は聞いていないぞ。それに、何もわざわざあんなところの手を借りなくても……」
 といいかけてドレゴは出かかった言葉を急に嚥みこみ目を皿のように大きくした。
「……そうか、あの一件だな、ゼムリヤ号の耐圧力……」
「そうなんだ。あのすばらしい耐圧力を持った潜水艦がぜひ欲しいんだ」
「ふうん、それは……それはどうかなあ、果たしてうまく行くかなあ。困難だねえ、大困難だねえ。それにあそこで潜水艦をこしらえたという話は一向耳にしていないからね」
「たとえこれまでに建造したことがなくっても、今度ぜひ建造して貰わねばならないのだ」
「大困難。不可能。たとえ百の神々が味方したって、まず絶望に近いね」

  怪人対策の懸賞募集

 水戸はドレゴの家に隠れて生活することとなった。
 ドレゴは、水戸の顔を見るなりエミリーの恋を水戸に伝えたく思ったが、仲々その機会がなかった。それでもその翌朝は、彼に伝えることに成功した。だが水戸は一笑に附しただけであった。ドレゴは不満であった。東洋人というやつは、なぜにこう人間味がなくて枯れ木のようなんだろうと。
 エミリーに一度会ってやることを薦《すす》めもしたが、水戸は一層強くそれを断った。サンノム老人の下宿へも帰れない現状において、どうしてエミリーに会えるだろうかというのだった。ドレゴは反駁《はんばく》して、エミリーは水戸のためなら水火も辞せない女だから、秘密を他へ洩らすようなことは絶対にないと力説したが、水戸は頑固にそれを受入れなかった。そしてソ連へ入国する機会を早く得てくれるようにと、ドレゴに一所懸命頼んだのであった。
 そのことについては幸いにもドレゴがケノフスキーと取引関係があったので、相当便宜を図れるかと思われた。そこで彼はケノフスキーへあてて、至急会いたき旨の電報をつづけさまに数通も打った。しかしどういうものか、ケノフスキーからの返電は一度も来なかった。水戸は、見苦しい焦燥の色も見せはしなかったが、彼は次第に無口の度を加えた。
 その頃、新聞やラジオは、大西洋の特定水域の航行
前へ 次へ
全92ページ中79ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
丘 丘十郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング