、全く一変してしまった。彼女は篤《あつ》き学究であったがゆえに、新しい生活様式についても超人的な探求と実行とをもって臨み、毎夜のごとく魂を忘れたる人のように底しれぬ深き陶酔境《とうすいきょう》に彷徨《ほうこう》しつづけるのであった。
「――いくら何でも、これでは生命が続かないよ」
と、いまは心臆した若き新郎が、ひそかに忌憚《きたん》なき言葉をはいた。
不良少年として、なにごとにもあれ知らぬこととてはなく、常人としては耐えがたい訓練を経てきた千太郎――ではない万吉郎であったけれど、その広汎なる知識をもってしても遂に想像できなかったほどの超人的女性の俘囚《とりこ》となってしまって、今は黄色い悲鳴をあげるしか術のないいとも惨めな有様とはなった。
「あなた。きょうはまるで元気がないのネ。どうかしたの」
と、薄ものを身にまとったヒルミ夫人は鏡の前で髪を梳《くしけず》りながら、若い夫に訊いた。
「どうしたって、お前――」
と、万吉郎は天井に煙草の煙をふきあげながら、かすれた声で応えた。
「まあ、――」
夫人は鏡面ごしに、このところひどく黄いろく萎《しな》びた夫の顔を眺めた。だんだんとこみ
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