あげてくる心配が、ヒルミ夫人を百パアセントの人妻から次第次第に抜けださせていった。そして間もなく彼女は百パアセントのヒルミ博士となりきった。
「ハハア、分りました」と、ヒルミ夫人は胸を張り鼻をツンと上にのばしていった。それはヒルミ夫人が診察するとき必ず出す癖であった。「男性て、ほんとにか細くできている者ネ。でもあたしがそれに気がついたからには、もう大丈夫よ。すっかり安心していていいわ。当分毎日注射をしてあげましょう」
ヒルミ夫人が確信をもっていったとおり、萎びたる万吉郎は注射のおかげでメキメキと元気を恢復していった。そして三|旬《じゅん》を越えないうちに、婿入りの前よりも、ずっとずっと強き精力の持主とはなっていた。
「治療にかけちゃ、うちのかかあ[#「かかあ」に傍点]は、なかなか大したもんだ」と、万吉郎は鼻の下を人さし指でグイとこすった。「いやそれよりもかかあ[#「かかあ」に傍点]のあの口ぶりを真似ていうと、現代の医学は実に跳躍的進歩をとげた――というべきであろうかナ、うふん。とにかくこうなると、俺は現代の医学というものにもっと深い関心を持たなくちゃならんて」
そんなことがあってか
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