士ヒルミ夫人のいうところに随《したが》えば、人間の恰好を変えることなんか訳はないというのだった。ことに、大した面積でもない凸凹《でこぼこ》した人間の顔などは、粘土細工同様に自由にこね直すことができると断言しているのであった。ヒルミ夫人の門に教を乞う外科医がこのごろ非常な数にのぼっているのも、このような夫人の愕くべき手術効果がそれからそれへと云いつたえられたがためであろう。
ヒルミ夫人が、なぜモニカの千太郎の何処《どこ》に惹《ひ》きつけられて花婿に択《えら》んだのか、それはまた別の興味ある問題だが、とにかく結果として、千太郎は万吉郎と名乗って、年上のヒルミ夫人のお伽《とぎ》をするようになったのである。
当事者を除いては、誰もこの大秘密を知る者はない。もちろん警察でも、まさか千太郎が顔をすっかり変えて、ヒルミ夫人の花婿に納まっているとは気がつかなかった。そこでこの奇妙な新婦新郎は、誰も知らない秘密に更《さら》に快い興奮を加えつつ、翠帳紅閨《すいちょうこうけい》に枕を並べて比翼連理《ひよくれんり》の語らいに夜の短かさを嘆ずることとはなった。
ヒルミ夫人の生活様式は、同棲生活を機会として
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