ろう。ああなんと跳躍的進歩をとげた大医学よ。――」
万吉郎は悦びのあまり、男の手をとってひき起し砂利場の上で共に抱きあって狂喜乱舞したとは、莫迦莫迦《ばかばか》しいほどの悦び方だ。
「さあ君、僕と一緒にくるんだ。君のために素晴らしい儲け話を教えてやる。それに女も有るんだ。水のたれるような美味《おいし》そうな、そして素敵に匂いの高い女なんだ」
男は大口をあけて呆気《あっけ》にとられていた。
万吉郎のビッグ・アイデアとはどんなことであったろう?
さすがに利発なヒルミ夫人だった。
彼女は早くも、若い夫万吉郎の仇《あだ》し心に気がついた。
と云って、万吉郎もすでに知りつくしているように、ヒルミ夫人はいかに若い夫が仇しごとをしようとも、彼を離別するなどとは思いもよらぬことだった。いかなる手段に訴えても、恋しい夫万吉郎を自分の傍にひきとめて置かねばならないと思った。もし万吉郎が、自分のそばを一日でも離れていったときには、自分はきっと気が変になってしまうであろう。
そんな風に、可憐なるヒルミ夫人は若き夫万吉郎のことを思いつめていたのである。
臨床実験のことも、病院の経営のことも、いま
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