闘牛の第一段で、スエルテ・デ・ピカルといい、その次がスエルテ・デ・バンデリヨである。バンデリヨは一種の鈷《もり》で、長さ二尺半ぐらい、尖に芒刺《とげ》があり、手もとに小旗のようなものが付いている。三人のバンデリエロ(鈷《もり》役)が、めいめい左右の手に一本ずつ持って、一人が二本を同時に牛の脊中に突き刺し、三人で順順に六本突き刺す。それも荒れまわる牛の正面から進んで、首を下げた瞬間に巧みに猿臂を伸ばして突き刺すのである。
 すでに槍で刺されて赤い血のリボンで飾られた牛は、更に六本の鈷を花野の薄の如くに脊負って、苛《いら》だち狂ってアレナの砂の上を暴れ廻る。それから第三段の、最後のスエルテ・デ・マタルの場面となる。仕止《しとめ》の場面である。
 マタドル(仕止《しとめ》役)は闘牛士《トレロス》の中での主役で、第一の花形である。第一回のマタドルはオルテガだった。精悍な体躯をした中年の男で、額が生え上ってメフィストフェレスを思わせるような相貌をして居り、短い上衣も、きちんと身についた半ズボンも白で、金糸の装飾があり、膝から下の靴下は淡紅色で、髪はぼんのくぼ[#「ぼんのくぼ」に傍点]に鼠の尻尾の
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