は決してそんな座席は選ばない。座席の最後の、つまり、スタンドの最上層は、屋根のある廻廊席になっていて、本来は婦人席だった。しかし、今は其処に男もいれば、またバレラスに陣取った女もある。座席はすべて石造のスタンドである。
三
四時半になると鐘《ゴング》が鳴り、演技は闘牛士《トレロス》の入場式で始まる。
アレナの向側の入口から、黒衣に白襟を付けた騎馬の役人《アルグアシル》が二人先頭に立ち、色さまざまの扮装をした人と馬の一団が此方へ進んで来る。徒歩の闘牛士《トレロス》が十人、騎馬が六人、外に飾り立てられた騾馬が三頭、その傍には白に赤の装飾ある頭巾をかぶった男が二人ずつ付き添いながら。三頭の騾馬と添付の六人は後《あと》で殺された牛を運び去る役である。
その花やかな一団はアレナを横断して、正面のテンディドスへ向いて列ぶと、其処に陣取っている闘牛の司宰者が牛檻《トリル》の鍵を馬上の役人《アルグアシル》に投げ渡す。
集団は解散し、闘牛士たちはめいめいの部署につく。雨がぽつぽつ落ちて来た。
向側の牛檻《トリル》の戸が開かれる。瞬間、一頭の大きな山のような牡牛が砂を蹴って駆け出して
前へ
次へ
全18ページ中5ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
野上 豊一郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング