にしたものであることは一見してわかる。牛と人間と格闘するアレナの周りには、高さ六尺ほどの堅牢な板囲いが円形に取り繞らされ、見物席を防護している。闘牛士《トレロス》たちはしばしば兇暴な牛に追われてその板囲いを跳び越えて身体を隠す。時としてはそれを追って牛が板囲いを跳び越すこともある。牛が跳び越して来ても、板囲いと見物席の前側の間は狭い通路になっていて、見物席は石の塀で遮られてあるからそれより内へは容易に侵入することはできない。
 その前側の見物席はバレラスとかコントラバレスとか、デランテラスとか、位置に依ってそういう風に呼ばれ、アフィシオナドス(通人たち)の争って獲得しようとする座席である。
 座席の位置は西日を後にした部分が最上とされ、席料も高い。アレナは円形であるけれども、中心から西へ寄った方で格闘はおもに演じられるように仕向けられ、最後に牛を仕止めるのも大概バレラスの前である。
 バレラスやコントラバレスの後は、後上りの階段席になっていて、テンディドスとかグラダスとか呼ばれる。私たちの席は日陰になったテンディドスの中程だった。闘牛を全体的に見るにはその辺の座席がよいのだが、通人たち
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