が跳び出した。殊に此の時は初めから極めて兇暴で、アレナのまん中まで駆けて来ると、じっと立ち止まって見まわしていたが、寄りたかるテュロたちの一人一人に突っかかって行くのが頗る獰猛だった。ピカドルに立ち向っては馬を突き倒し、投げ飛ばされたピカドルの方へ駆け出してその腹を突いた。しかし下に防護衣を着込んでいたので、やられたかと思ったが、大したことはなくてすんだ。牛の勢い猛なるを見て見物人はオーレイ! オーレイ! と叫ぶ者が多かった。第一のピカドルは失敗したので、第二のピカドルが他の側から駆けつけて来て槍を刺し込んだ。バンデリエロも六本の銛を立てるのにだいぶ苦心した。
最後にスエルテ・デ・マタルの場面となり、小ベルモンテが立ち向うと、牛は血だらけになっていても少しも弱りを見せず、砂場を一ぱいに駆けまわって、却って闘牛士《トレロス》たちを翻弄するような状態であった。ベルモンテも派手やかに秘術をつくし、片膝をついて向って来る牛に肩を跳び越さしたり、角をつかんで引きまわすようなことをしたり、もういいかげんに仕止めてもよさそうだと思うのに、いつまでも牛をあしらっていた。そうして大いに余裕を見せて、ね
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