突き刺すと、その剣は文字通り鍔もとまで刺さり、瞬間に黒い巨体は横倒れになった。満場湧くが如き喚声の中で、拡声器は国歌の吹奏を始め出した。授賞式が始まるのである。
 闘牛の賞品は一等賞は殺した牛の耳、二等賞は尾、三等賞は脚の一本、特等賞は首をもらうことになっている。その外にそれに相当する金の添えられることはいうまでもない。オルテガは、係りの者が前脚を一本切り放して、それを司会者の前で授けられた。
 第四回は小ベルモンテがマタドルだった。
 第五回はオルテガ。牛もあばれまわったのだが、仕止《しとめ》は三度目にやっと、それも剣の刃を三分の一ほど余して嵌まった。助手がすぐ今一つの剣を持って行った。尖が十字形になっている剣で、第一の剣でうまく行かなかった時はそれで眉間《みけん》を突くと即死する。しかし、それを使わないうちに牛は斃れた。もがいて斃れるのを見るのはよいものではない。
 最後の第六回は小ベルモンテがマタドルだった。彼は第三回の成功以来目に見えて競争心を起し、何か花やかなことをしてやろうとあせってるようであったが、遂に最終回に及んで大事件が出来した。
 牛も回を重ねるに従い次々に猛烈な奴
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