座席(バレラス)に頑張って、土砂降りの中に濡鼠のようになってる一人の紳士と一人の婦人があった。雨のために演技が中止になりそうなので、(中止になるとその日の入場券はそれきり無効になるので)、豪雨にも拘らず座席を離れないで、演技を継続させようとする意志表示らしい。係員のような男が傍へ行って何やら話していたが、男はかぶりを振って座席を離れようともしなかった。女の方はあんまり雨がひどいのでやがて遁げ出したけれども、煙突男ではないバレラス男は最後まで頑張り通した。それがためかどうかはわからないが、やがて拡声器が第二回以下は明日午後四時半から続行すると報告した。
四
次の日も午前は少し降ったが、正午頃から霽れ上り、午後は強い夏の日がかんかん照りつけた。
昨日につづく第二回は小ベルモンテがマタドルだった。彼はエスパーニャ人としては白面の青年で、淡青色の上衣に同じ色のズボンを穿き、靴下は淡紅色で、瀟洒たるいでたちで、それに美貌が人気を集めて、よほどファンが多いようだった。
第三回のマタドルは昨日のオルテガで、例のメフィスト的な爛々たる凄い目を剥いて荒れ狂う猛牛を抱き込むようにして剣を
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