けであるが、鹿島丸は七十二囘の航海をする老齡船のことではあり、フランスの領海は一歩沖に出ると何處に水雷が敷設してないとも限らないといふ不安もあつて警戒しながら行つたせゐか、意外に時日を要した。それに航行中乘客に氣を揉ませた事件も一つならず起つた。私は寢てゐて知らなかつたが、ガロンヌを下つて、まだ下流のヂロンドを出きらないうちに、推進機に故障を生じて長い間停船してゐたさうだ。それから海に出てブルターニュの海岸を通つてゐると、どこかの(多分フランスの)驅逐艦に追つ驅けられて、燈火信號で西の方へ迂※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]しろと命じられた。ブレストの軍港が近いので、その邊には艦隊が集まつてゐたらしい。日本の汽船は中立國の安全を守るため、船腹に大きく國旗の標章を塗り出して、電燈をあかあかとつけて走つてるので、その光で艦隊の存在を知られることを懼れての信號命令だつたらうと推定される。初めその信號が即時に受け入れられなかつたためか、驅逐艦はわれわれの船の周りを輪を描きながら追ひ立てて行つたのが、ちよつと氣味がわるかつた。さういつて實見者のU君が翌る朝みんなに話すと、なにしろ杖をつい
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