えてゐたから、ほんとうに來たのかも知れない、とその人は眞顏になつて話した。それから、午前十一時頃にもまたアレルトがうなりだして、また高射砲の音が方方で聞こえてゐた。眞夜中ならとにかく、晝間のことだから演習とは思へなかつた。あの音を聞くと全く落ちつかなくなる。世の中にあんな咀ふべき音響はない。さういつてその人は憤慨してゐた。
今一人の人は、パリの大學都市の附近に爆彈が落ちたといふ話を持つて來た。君が見たのかと聞いたら、見はしなかつたが專らそんな噂だつた、といふことだつた。
フランスとイタリアの國境は、一度閉されてゐたが、すでに開かれてるといふことだ。ボルドーに避難してる人の中には、これからマルセーユに出てイタリアに入り、ヂェノアかナポリから船に乘らうといつてる人もあつた。その人は、フランスに着いたばかりで戰爭になり、フランスの美術が見られなくなつたので、せめてイタリアだけでも見て歸りたいといつてゐた。しかし日本郵船はこれから當分皆パナマ經由で歸るともいはれてゐたので、イタリアに行くことも躊躇してゐるやうだつた。
新聞はイギリスの飛行機が首相チェインバレン氏の名に於いて「ドイツ人に告
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