更けてゐたけれども電話をかけると、二人ともすぐ訪ねて來た。
菊池君夫妻はトゥールの附近に藤田嗣治君夫妻と滯在してゐるうちに、形勢が日に日にわるくなつて來るので心配してゐると、今朝とうとう戰爭が始まつたのでそこを立ち、さつき歸つて來たばかりだといふ。菊池君夫妻が旅行するとは知らないで、私たちの方がエスパーニャに行くので預けて置いた鞄の中には、私たちにとつて大事な能面が入つてゐたのである。それを知つてゐた菊池君はトゥールまでそれを持ち運んで歸りの汽車の混亂の中で迷惑したことだらうと氣の毒になつた。
私たちは明日ボルドーに立つから(私自身はまだ汽車に乘れるかどうかわからなかつたが)、[#「が)、」は底本では「が、」]もし都合がついたら一緒に立たないかと勸めたけれども、菊池君は今度歸るといつまたフランスへ來られるかわからないので、製作品(彫刻)の始末をして置かなければならないから、あと一二日かかるだらうといふことだつた。それでボルドーでの再曾を約して別れた。
菊池君夫妻を送り出して、アヴニュ・オッシュから持ち歸つた物をスーツ・ケイスに收め、持物の整理が終つた時は、もう二時を過ぎてゐた。汽
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