朗らかな表惰ではない。パリはもう笑顏を失つたのだ。さう思ふと、いたましい氣持なしでは見られなかつた。
 その中に一人の醉つぱらつた若い女が、丁度私たちと向ひ合つた席にかけてゐて、殆んどヒステリかと思へるほどの亢奮した調子で、たえず右隣りの蓮れの女に話しかけたり、ひとりごとをいつたり、時時左隣りの連れの男に接吻したりしてゐたが、ほかの人たちはにがにがしい顏をして輕蔑の目でその女を見てゐた。
 エトワールで私たちは地上に出ると、もう夕闇が下《お》りてゐて、急に灯《ひ》の少くなつた市街はいやに陰慘な感じだつた。灯は皆紫つぽい藍色の灯ばかりで、それが殊にそんな感じを與へるのだつた。凱旋門は黒く大きく聳え立ち、その下に集まつてる人たちは、何を見てるのか、ぽかんとして、幾かたまりにもかたまつて立つてゐた。ひよつと氣がつくと、ブーロンニュの森の上あたりの暮れ殘つた灰色の空に大きな氣球が二つ黒く浮かんでゐた。
 その邊も大通は車がヘッド・ライトを蔽うて織るやうに疾驅してゐた。その間をやつと横ぎつて、私たちは暗い歩道をアヴニュ・オッシュの方へ歩いて行つた。何度も來たところではあつたが、大使館邸の入口を探
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