止まつて戰爭の姿を見たいと思ふ氣持と、この二つの氣持が私の中にあつた。いづれにしても、身のまはりの用意だけはして置かねばならぬので、私はみんなに一先づ別れを告げ、代理大使にも挨拶して大使館を出た。
 トロカデロの廣場には初秋の午前の陽光がさんさんと降りそそいで、半ば黄葉した竝木の間からは、エッフェル塔がすつきりした形で淡青色の空に聳え立つてるのが見える。いつも見馴れた景色ではあるけれども、今日は新しい氣持で見直さうとするやうな心がまへが私にあつた。その下にパリは靜かに横たはつてゐた。どこを見ても靜かであつた。廣場には人の群がりもなく、あわただしい足どりもなく、叫ぶ聲もきこえず、ささやく姿さへ認められなかつた。こちらでは年とつた一人の掃除人夫が歩道の落葉を掻き集めて居り、向うではカフェのテラスに人がまばらに腰かけて、新聞を讀んだり煙草を吹かしたりしてゐる。彼等はまだ戰爭の始まつたことを知らないのではないだらうかとさへ思はれた。
 私はメトロでモン・パルナスまで乘つて、ホテルに歸つた。車の中でも、往來でも、みんなの顏が深刻には見えたけれども、荒く興奮したやうな所は感じられなかつた。ところど
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