じような形の岩壁が何十と重なり合って岩角を畳み合せてるのが、岩肌は黒に黄色味を見せ、角々に雪を持って、壮観限りないものだった。シャイデックから乗って来た駅員のような服装をした男に名前を聞いたら、メンリッヒェンという有名な山だといった。その下の斜面は緑の草原で、人家がぽつりぽつり散らかっていた。
 十七時五十分、予定通りインターラーケンの停車場に着くと、ホテルの親爺が約束のスーツケイスを持って来ていた。弥生子の借りて行った傘を返し、銀貨をつかませて親爺と別れ、ジュネーヴ行の列車に乗り換えた。
 テューンの湖畔を走ってる頃には空がきれいに霽れ上り、皮肉にも今まで雲に隠れていた乙女《ユンクフラウ》も坊主《メンヒ》も顔を出した。アイガーまでが坊主《メンヒ》の肩から顔を出した。なんだかばかにされたような気がしたが、乙女《ユンクフラウ》には悪い坊主《メンヒ》と得体の知れないアイガーなんて奴が付いてるからだろう。
 その夜ジュネーヴの停車場で藤田君夫妻に迎えられ、藤田君の家に泊り、その話をすると、フランス婦人なるマダム藤田はおもしろがって笑った。

    五

 次の日もその次の日もジュネーヴにい
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