きらいだから、そういった設備を許さないのだという解釈だった。それも一見識だろうが、これだけの電車があれば、自動車のうるさいドラィヴィングなどはない方がよいにきまっている。
 此の登山電車は最近のものかと思ったら、一八九八年(明治三十一年)に起工して一九一二年(同四十五年)に竣成している。設計者は、テューリヒのアドルフ・ガイヤーツェラーという機械技師で、全長九キロ二に対して総工費約一千万フランを要し、牽引方式は触輪式で、動力はラウターブルンネンとブルクラウエネン付近で水力電気を起し、其処から七千ヴォルトの電圧を変圧所に送り、それを六百ヴォルトに下降さして電車を動かしてるので、機関車は三百馬力だということである。私は先年上河内に行った時、せめてあの辺まででも登山電車を敷いたらどうかと思ったが、そうしたら実際あのこわれかけたようなガタバスで揺られて行くよりどのくらい愉快だか知れないのだ。
 帰りの電車では、疲れたせいか、いやに睡かったが、それでも行きに雲が懸かって見られなかった景色が展開するので、眠るわけにもいかなかった。ヴェンゲンに近づくともう雪は止んでいた。右側に見上げるような高さから同
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