うことだった。しかし、すぐ気がついて見ると、ベルンに来てるのだから、そうして、ベルンから南東を展望してるのだから、いうまでもなくこれは「ベルンのアルプス」と呼ばれる中央山系でなければならない。そうだとすると、ユンクフラウ(乙女)があの連峰の中に交ってる筈だ。私たちがこれから訪ねて行って、明後日はそれに登ろうと計画してるユンクフラウが。
 こんなに早くユンクフラウに出逢おうとは思わなかった。つい一二時間前私たちはドイツを旅行していた。そうして、国境を越えて今スウィスに入ったばかりだった。入って見ると、ユンクフラウが待っていたのだ。少年の頃からいかにしばしばそれについて読んだことか、聞いたことか! その親愛なユンクフラウが待っていたのだ。
 私は少年のようにあせって連峰の中から早くそれを選み出したかった。丁度ボイが入って来たので、尋ねると、彼は連峰のまん中あたりに一きわ大きく逞ましく根を張った山を指ざして、あれがそうですと答え、なお次々におもだった峰角の名前を数え立てた。私はパノラマ図録と首っ引きで一つ一つそれ等を跡づけて行った。
 まずユンクフラウ(四一六六米)から左へ辿ると、すぐ隣りの
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