列になって見え、全体として、いかにも清らかに鮮やかに花やかに、且つ、消えたばかりの夕映の名残を浴びて皺襞の陰影が甚だ繊細な微妙なものでさえあった。私は今までこれほど豪華な山嶽の駢列を見たことがなかった。オリュンプスの神々女神たちの行列を作ってるところを思いもかけずかいま見たような驚きと喜びだった。
それに私の立ってるところと連峰の間には、殆んど地上で想像される限りの美しい通観《ヴィスタ》があった。赤味の勝った絨毯と壁紙で飾られた部屋のすぐ下には碧玉を溶かしたようなアーレの流れがあり、対岸はよく整頓された並木に縁どられて、色さまざまの家屋の列が幅狭くつづき、その先は深い樹林の帯で、もう春の新鮮な衣装をまとった丘が背景をなして、そこから連峰までの間にはあまり高くない無数の山々がまだ冬の姿のままで起伏し、一番先に白皚々のすばらしい屏風が青空を仕切ってるのだから、それ等を通観した大きな画の前に、全く、しばらくはただ茫然と見とれてるだけで、ほかになんにも考える余裕はなかった。
その景観にやや目慣れてから、まず思い浮かんだことは、一体これはアルプスの多くの山系の中でどれに属する部分だろうかとい
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