から黒い鳥が二羽三羽と吹雪の中を飛び下りて来てはまた飛び上って行く。烏に似て烏よりは小さく、鳩よりは大きい。名前を聞いたらベルクドーレ(山がらす)というのだそうだ。私たちはすぐ目の前にユンクフラウの本体を仰ぎながら、富士より三九〇米高く、新高より二一六米高いその俊峰を卍《まんじ》巴の雪花の中に見失い、しばらく償われない気持で立ちつくした。
それから案内人に導かれて氷の宮殿なるものを見に行った。些か子供だましみたいな所はあるが、子供だましにしては大がかり過ぎる。ベルクハウスから氷河の底へ長くトンネルの廻廊を通じて、氷の円柱が列んで、氷の小部屋、氷の大広間、氷の天井、氷の床、氷の壁、氷の棚。氷の棚にはスケイト用の靴が用意してあり、氷の大広間でスケイティングをやりたい人にはそれを貸す。ペル君(ブラジルのジャーナリスト)は珍らしがって靴を穿いたが滑ることには成功しなかった。案内人は小さい橇を持ち出して、私たちを押して大広間の中を一巡させた。隅の龕みたいな所には氷の花瓶に花が活けたりしてあった。
やがて時刻となり、例の同行六人仲よく下山電車に乗る。
縁があったような、なかったような、ユンク
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