したのであろう。カイロの町の古い部分の市場へ行って見ると今も見られるが、カーンといって内庭を持った二階建の倉庫風の宿屋がある。昔はその内庭に夜になると家畜を追い込んだが、宿屋に泊れない人間はその片隅に寝せて貰う習慣があった。エジプトからパレスティナへかけてそうだった。マリアとヨセフがベトレヘムの牛小屋に泊っていたというのもそういう場所であっただろうし、エジプトへ来て、バビロンのカーンの片隅に夜露を避けていたというのもそういう事情からであっただろう。そのカーンの跡が、キリストが尊敬されるようになってから、それをクリプトに造り変えて、その上に寺を建てたものと思われる。それはコプトの信仰の盛んになった六世紀頃のことだと推定されている。
 コプト Copt はアイギュプティオス Aigyptios またはエギュプト 〔AE&gupt〕(即ちエジプト Egypt)の転訛で、エジプト土着のキリスト教徒のことを今はそう呼んでいるが、彼等はモハメド教徒侵入前から既にエジプト各地に教会を建てて熱心な信仰を持っていた。今日でもコプトの数は七十万以上あるといわれ、中には福音書を全部暗記してる者さえあるそうだ
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