、美貌の少年で、殿堂の祭司で、何よりも血統が人民の信頼を集め、嫉妬ぶかいヘロデにとっては目の上の瘤だったが、人民の思わくを顧慮して容易に手をつけることをしなかった。そこヘエジプトの女王クレオパトラが、ペルシア遠征のアントニウスをエウフラテス河まで見送っての帰りに、ダマスクスから道をユダヤに取ってエルサレムに訪ねて来た。アリストブルスの母アレクサンドラは衷情を披瀝して息子の身の安全を相談した。クレオパトラは機会があったらユダヤをもエジプトに併合したいという下心があったし、ヘロデに対してはもともと好感を持ってなかったので、その相談に乗り出し、アレクサンドラに息子をつれてエジプトへ来るようにと勧めた。事は秘密に計画されたけれども、船に乗る直前にヘロデの部下の者に見破られて、遮られた。ヘロデはクレオパトラを暗殺しようとさえ企てたけれども、アントニウスの復讐を恐れて中止した。しかしアリストブルスを巧みに欺いて庭苑内の池の中で溺死させた。母のアレクサンドラは憤慨して、手紙でクレオパトラに訴えた。クレオパトラはアントニウスに使を出して彼を動かした。アントニウスはラオディケア(トルコ)にいたが、ヘロデ
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