装は一様に黒ずくめで、バルクといって目だけ出して足の爪尖まで垂らした黒布の上から、ハバラという黒い被衣《かつぎ》を掛けている。装身具は耳環・頸環・腕環・踝環などで、上物は金銀、普通は真鍮、安物はガラスなどで出来ている。われわれの目に最も奇異に映るのは、多少身分のある女が目を出して鼻を隠してることだ。目は巴旦杏《アマンド》のように大きく見開き、長い睫毛が美しく蔭をさして、それが全身を包んだ黒紗のバルク(その下に白紗を重ねている)の間からのぞいてるのだが、目だけは出してよいけれども、その他のものは見せてはならないという掟でもあるものか、鼻の付根からヤシマクとかいう長さ二三寸の金属や象牙で出来た管を付け、その管にはきまって金環が三つ通してある。尤も、近代はそういった風習も次第に下火になったそうで、面紗なしで往来を濶歩する女も多く見られる。もちろん男もヨーロッパ風の服装をした者が多く、それでも黒房のついた赤いタルブシュ(謂わゆるトルコ帽)だけはかぶっている。われわれの親愛なサイド君も、脊広を着て、そのでっかい頭の上にはタルブシュを必ず載っけている。彼は時時短い鞭を携帯する。郊外や田舎へ行くと女
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