子供が乞食のようにたかって来て、バクシシュ・バクシシュ! と手をさし出す。それをわれわれから防いで追っ払うためだ。

    三

 カイロで見るべきものは何といってもエジプト古代博物館である。けれども、それは貴重な記念物を方方から寄せ集めた陳列所で、昔からその場所を占めている遺跡ではない。古来の遺跡としては、カイロにはローマ時代以前の物は殆んど見られない。ローマ時代の物といっても、僅かに城砦の礎石と水道の一部ぐらいである。及び、二三の初期キリスト教寺院の遺跡もあるが、それとても当時の建造物が保存されているのではなく、昔の遺跡の上に建てられた中世の建物である。今日カイロの誇りとしてる建造物といえばすべて中世以後のモスクと墓と、及びサラディンの築いた城砦である。文化史的にいえば、カイロの誇りとするものはすべて回教的なもの[#「回教的なもの」に傍点]でありアラビア的なもの[#「アラビア的なもの」に傍点]であって、パロ的なもの・エジプト的なものではない。
 これはエジプト的なものを求めようとする旅行者をば一応失望させないでは措かない。
 けれども、カイロの発展の歴史を考えて見ると、必ずしもそ
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