いと見え、いつも自動車の方が譲歩する。
 カイロの町の旧い区域は街路が狭く、曲りくねっていて、家は二階の方が一階よりも出っ張って居り、薄暗い往来の上をうごめいている人間は、アラビア人だか、シュリア人だか、アルメニア人だか、トルコ人だか、ユダヤ人だか、コプト人だか、ベドゥイン人だか、通りすがりの旅行者には容易に見わけがつかない。モハメド・アリ通を中心とする新市街はヨーロッパ風の豪華な町並で、通行人もヨーロッパ風の服装の者が多いが、旧市街部へ行くと昔のままの家屋と風俗で、多少穢くはあるが、見た目には絵画的だ。男は白か竪縞の長い寛衣の裾を引きずり、頭に※[#「巾+白」、第4水準2−8−83]布《ターバン》を捲き立てている。ターバンは七捲がきまりだが、いちいち捲かないでもよいように捲いた形に縫いつけて、すっぽりと冠れるようになっている。色は白が多いけれども、黒・紺・赤などもある。(メッカ巡礼には緑のを捲くそうだ。)もとは種族的・階級的の色別だったが、今日では必ずしもそうではなくなったということだ。女は上層の者はめったに外出しないので、われわれの目に触れるのは下層の者か、たまに中層の者である。服
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