、説明の字幕は左端にアラビア語、右端にギリシア語が出た。フィルムはフランス物が多かった。
市街で買物をするにはフランス語でも英語でも用事は足せるが、ギリシア語かイタリア語の方が便利のようだ。バザーへ行くと、しかし、アラビア語でないと幅がきかない。カイロのバザーは、イスタンブルのバザー、ダマスクスのバザーと並んで世界の三つのバザーといわれる。バザーは回教国に特有のもので、特長の一つは、同種の店が同一区域内に集まってることで、宝石屋の通は軒並に宝石屋ばかり、絨氈屋は絨氈屋同士で群落をなしている。バザーへはサイドをつれて車で出かけたが、街路が狭くて二台とは並べないので、たまに向からも車が来たりすると厄介だ。往来には土地の男女がぎっちり詰まって極めて緩慢な動き方をしてる。その中を驢馬に曳かせた馬車が押し通って行く。鞭が唸り、リグラク・リグラク! ウワ・ウワ! と鋭い声が叫ぶ。それに圧倒されて通行人はのそのそと道をあける。自動車は更に圧倒的であるべきだが、いずれ徐行するだろうとたかをくくってか、通行人の方ではのそのそでなしには避けない。自動車が驢馬車に出っ逢《くわ》すと、驢馬の魯鈍にはかなわな
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