きであった。
 そうやって初めてカイロを見た時、私は昔の侵略者たちが此の辺からそれを俯瞰して勇躍した心持を想像した。実際、カイロほど、しばしば外国人に侵略された都市はあまりないだろう。もしエジプトはエジプト人のエジプトでなければならぬとするならば、今のエジプトは侵略されたままのエジプトであり、カイロは侵略者の都市だから、エジプトは本来のエジプトでなく、カイロはまたエジプトの首都ではないということになりそうだ。そんなことを考えているうちに、列車は薄暮の渾沌《カオス》の町へと滑り込んだ。公使館の勝部書記官と、私たちと同県の阿南君が停車場に迎えてくれた。
 忙しい見物がその晩から始まった。
 まずカジノ・ベバというのに案内してもらった。他にもヨーロッパ風のカジノやオペラはいろいろあるけれども、カイロではカイロらしい土俗を見たいと思った。カジノ・ベバは浅草か本所あたりのさかり場といったような感じのする区域にあって、あまり広くもない土間にはアラビアの若者たちがぎっちり詰まっていて、綺麗な少年や少女が唄ったり踊ったりするのを囃し立てていた。
 映画館に行くと、トーキーはフランス語でしゃべっているが
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