出て、また南へ曲り、トゥクフとかカリウブとかいう所を過ぎた。ニルの沿岸に起伏する山脈が遠く姿を現わすのはその辺からで、行くに随って右手にはギゼのピラミッドが三つ並んで小さく見え出し、その先にはリビュアの沙漠が大洋の如く連り、左手にはアラビアの沙漠の裾が少しばかりのぞいて、手前にモカタムの岩山が横たわり、その端に聳えてるサラディンの城が目を見張らせる。かと思うと、その下に黄塵の如く拡がっているのがカイロの町であった。傾いた太陽の反射でそんな錯覚を起したのだろうが、よく見ると、灰黄色・淡褐色・白色の石塊を撒き散らしたように街衢が交錯して、その間に回教伽藍《モスク》の円屋根《キューポラ》と尖塔《ミナレット》のおびただしい聚落がある。サイドに聞くと、カイロにはモスクが大小四百ばかりあるそうだ。カイロが回教都市だということは知っていたけれども、そんな盛んな回教的第一印象を受けようとは思わなかった[#「思わなかった」は底本では「思わなった」]。それは北緯三十度の、十月尽とはいいながら、まるで日本の夏の盛りの如き灼熱の日光の下に、もやもやと蒸し返された夕靄の底から、無数の石筍の簇生を発見したような驚
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