それには(七)フランスとイギリスの勢力が根強く潜在するようになったのを見遁すことはできない。つまり、七種の文化が七重に堆積して[#「七種の文化が七重に堆積して」に傍点]出来上った複雑怪奇な都市でカイロはあるということになる。
 そうしてその変遷の過程を跡づけて見ると、発展の径路はニルの左岸に始まって右岸へ移り、更に南から北へと移動している。これは一つはニル流域の地理的変化に因るといわれるが、一つはまた時代に依って変った交通機関の影響もあっただろうし、更にまた新しい侵入者がいつも古い都市を灰燼にする習慣のあったことも考慮に入れなければならないだろう。
 とにかく、そんな風にして都市が動き変り、古い物の上に新しい物が重ねられ、その度に文化の様式が改変され、以前からの種族の中に別の種族が割り込み、殊に近代に於いては近東地方からもヨーロッパ諸国からも多くの種族が流れ込んで、全く今日のカイロは宛然たる人種市場の如き景観を呈するようになってしまった。

    四

 私たちはニルの奥地へ行く前と、帰ってからと、毎日時間を都合してカイロの町と郊外を見て歩いた。諸種の博物館(エジプト古代博物館・アラ
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