El−Ka^hira〕 はアラビア語のカヒル 〔Ka^hir〕(火星)の転訛で、それが都市の名称となったについてはおもしろい記録が残っている。九六九年八月五日の夜、ガウハル将軍は新都市の設計を完了して、砂原に繩張をし、占星者が天体を観測して、吉兆の瞬間に鐘を鳴らせば、最初の鋤が入れられるように用意して、土工たちは合図の鐘を待っていた。その時、一羽の大鴉が鐘の柱につないだ綱にとまったので、鐘が俄かに鳴り出し、土工たちは一斉に鋤を入れた。その瞬間、観測者の眼鏡に火星《カヒル》の上るのが見られた。それでカヒラと新都市は命名されたが、アラビア人の伝説で火星《カヒル》は不吉の兆とされていた。けれども同時に火星《カヒル》は軍神(ローマのマルス)でもあり、勝利者[#「勝利者」に傍点]を意味するということに故事つけて、カヒラは以後「勝利の町」として理解されるようになった。
 近世に入ってカヒラは再びトルコ帝国の支配下に属したが、ナポレオンの指揮するフランス軍の侵入のためにそれを抛棄しなければならなくなり、その機会を利用してモハメド・アリが奮起し、またアラビア人が主体となって、古いモスクを修覆し、新しい
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