桂離宮
野上豐一郎

−−
【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)縁《ふち》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)半|間《げん》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#地から2字上げ]
−−

       障子の影

 桂離宮の書院から庭に面して、折れまがりに小さい三つの部屋が、一ノ間・二ノ間・三ノ間とつづいてゐる。
 その一ノ間の障子に、折からの小春の西日があかるくさしてゐた。
 障子は、左右が半|間《げん》づつの板戸に仕切られ、腰板のないのが二枚、つつましやかに、ものしづかに並んで、晝間もほのぐらさのただよつてゐる部屋の中へ無遠慮に押し入らうとする強烈な日光を、方六尺の白紙で遮り止めてゐた。その正方形の窓――それがどうして窓でないと云へよう――の右上から左下へかけて、對角線を引いて、下半分が青黒い蔭になつてゐた。それは此の部屋につづく隣りの建物の屋根の影であつた。また正方形の上部の一邊に接して、此の部屋の廂の瓦の影が、粗い波形を描いて縁《ふち》どつてゐた。
 私たちはその豫期しなかつた白と黒の幾何學的影像の前に來て、は
次へ
全8ページ中1ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
野上 豊一郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング