いいね、と叫んだ。どこを見ても一面の草原で、その間に秋草が咲いて、なでしこの色が湖水の縁のよりも一きは濃く、ところどころに菖蒲の咲いてゐるのも珍らしかつた。
 根原《ねばら》といふ村を過ぎる頃から、道はどんどん下りになつた。もう皆んな馬上の高さに慣れて、兩足の内腿で鞍を締めつけるやうにして馬の歩行のリズムにつれて腰を浮かす調子が幾らかわかつて來たから、(口綱はもう皆んなはづしてゐた、)時時トロットをやつて見ようとしたが馬はいふことをきかなかつた。私の馬と虚山君の馬は殊に後れがちであつた。虚山君のは十五歳の年増だといふことがわかつて大笑ひになつた。私の乘つてゐるのは姙娠五ヶ月だと聞いて、これは笑ひごとではなく、むしろ可哀さうになつた。のみならず、途中で氣がついたのであるが、下り坂になると左の後足を石にぶつつけるのでどうしたのかと思つたら、その足だけに大きな草鞋が結《ゆは》ひつけてあつた。まん中の爪を傷めてゐるのだと親爺が説明した。幾ら五圓になるからといつて姙み馬の、しかも怪我までしてるやつを引張つて來るのはひどいと思つた。それに乘り合はせたこともいまいましかつた。それから、全くめちやくち
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