フ記念塔の上でさながら一七八九年七月十二日の夜の光景の如く、天を焦がす赤い火が燃やされ、花火が打ち揚げられるのを見ても、さまざまの当時の歴史的事件が、概念としてでなく事実として実感され、日ごろはよくわからなかったフランス人の国民性の隠れた一面がはっきりと現前して来るようにさえ思われた。フランス人と限定しないで、ヨーロッパ人といった方がよいかも知れない。否、人類すべてに適用して考えても見てもよいかも知れない。世界の文化の裏に執拗に潜在している人類の蛮性というものを私たちは大事件が突発する度に見せられる。フランスの革命は確かにその一適例である。当時パリの市街は凄惨な火と血と叫喚の焦熱地獄と化していた。しかし私たちの今見ようとしてる[#「してる」は底本では「して」]コンシエルジュリは、反対に、凍結と冷血の恐るべき別世界で、地獄の中でも紅蓮大紅蓮と形容される寒烈の奈落の底のようなものだったに相違ない。
其処へ入って行くのに私たちはまずまごついた。毎週木曜日でないと公開しないというので、午後早めにルーヴルの何回目かの見学を切り上げて駈けつけたが、入口がわからないので、初めは裁判所のサール・デ・
前へ
次へ
全21ページ中7ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
野上 豊一郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング