゙理性の喪失を物語るペイジである。その時逆上したパリの暴徒はこのコンシエルジュリの門を破壊して闖入し、収容されていた囚人を悉くこの中庭で殺した。われわれの住んでる世界はサタンの世界ではないけれども、サタンはその中にもぐり込んでいて、機会のあるごとに活躍する。カーライルはそう批判した。人間を造る自然の中には、天国的な方面もあれば地獄的な方面もある。十八世紀末のフランス革命ほど地獄的活動の顕著であった実例は容易に見つからない。
三
最後に私たちはマリ・アントワネットの部屋を訪問した。小さい長方形の暗い部屋で、高い所に小窓が一つ付いている。今は隣りの部屋とつづいているが、その頃は壁で仕切られて、広さも今の半分ぐらいで、今よりも遥かに暗かったのだそうだ。壁も天井も石で、石は薄黒くなってい、床には煉瓦が網代形に敷いてある。天井から三本の鉄の鎖で吊された一つの鉄のランプは、ゲテ物として見ればしゃれた形ではあるけれども、フランスの王妃の姿を照らすにはあまりに粗末な荒物である。
マリ・アントワネットは一七九三年八月二日の未明に、市役所の馬車に乗せられて、タンプル塔の幽閉所からコンシ
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