ナる低い川岸と、それを縁《ふち》どっている絹柳の並木とその向に聳え立ってる神聖《ホリ》トリニティの尖塔を一緒に見通した景色は何とも美しいものだった。町には、祭の季節だからだろう、人が大勢歩いていた。
まず宿を取って置く必要があったので、私たちはシェイクスピア・ホテルというのに乗りつけた。赤馬《レッドホース》というのも橋のたもとにあって、ウォシントン・アーヴィングが此の土地の印象記(それを私は中学時代に読んだ)を書いた時泊っていたホテルだというので有名だが、それをば此の土地第一の得意客なるアメリカの淑女紳士諸君のために譲ることにして、私たちはシェイクスピア・ホテルの方を選んだ。それは十五世紀に建てられた気持のよい木造三階の建物で、家具なども調和するように工夫されてあるので興味を喚び起されるが、宿泊者にとっての今一つの興味は、客室の一つ一つが作品の名を持ってることで、どんな部屋に案内されるかと思ったら、私たち二人の部屋は九号室で、All's Well that Ends Well(おわりよきものはすべてよし)だった。なるほど喜劇の外題だったら大してあたりさわりがなくてよかろうが、悲劇にはだ
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