いぶさしさわりのあるものがある、というと、喜劇だって新婚の夫婦がい L. L. L.(恋の骨折損)の部屋に通されたらどんなものだろう、とか、いや、やきもち屋の亭主と Othello《オセロー》 の寝室に寝かされたらどうだろう、とか、そんなことを話し合って笑ったが、そういえば今夜は『オセロー』の芝居を見に行くのだったと思いつき、急いで支度をしてロッビへ下りる。
廊下のつきあたりに Macbeth《マクベス》 と札を打った部屋があって、ドアがあいていたから、のぞいて見たら、読書室だった。さしさわりのある名前は客室には付けないのかも知れない。ロッビで水沢・工藤両君に部屋の名前を聞いたら Troilus《トロイラス》 and《アンド》 Cressid《クレシダ》 だといって、つまらなそうな顔をしていた。
芝居のある場所はシェイクスピア記念館《メモーリアル》といって、ホテルから歩いて五分とはかからなかった。一方はすぐ川になって、前の広場の楡《にれ》の並木には色とりどりの裸か電球が枝に付けてあるのも祭の季節だからだろうが、鄙びてストラトフォードらしかった。記念館は前世紀の七十年代に建てられたも
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